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シャーロック・ホームズ学への招待 [ ┗研究書・パスティーシュ]

シャーロッキアン(英国ではホームジアン)の楽しみはたくさんあって人それぞれなのですが、ホームズの研究という分野は、正典60編に書かれていることは基本的にすべて正しく、ホームズは実際にワトソンが書いたとおりに活躍し、コナン・ドイルは出版代理人だったというルールに従い、正典を研究するというのがオーソドックスなものだと理解しています。きちんとまじめに学術研究のスタイルを取るというのも一つのウィットとして楽しまれているようです。ホームズの名台詞「The Game is afoot!」からとって、この研究のことをThe Gameと呼んで楽しんでいます。(みっちょんさんのホームページで詳しく書かれていますね。)

ちょうどロンドンで本格的にホームズ研究してみようと思ったときは、ロンドン大学に留学して修士課程で勉強していたときと重なります。修士課程ではもちろん専門分野のことについて学んでいくのですが、平行してどのように研究していくのかという方法もたたき込まれます。そこで習った一番最初のことでかつ重要なことは、「剽窃をしてはいけない」ということでした。剽窃というのは他人の研究を自分の研究のように見せることで、そんな大それたことはしないと思いがちです。大きなテーマについてはそうかもしれませんが、実は論文の一文一文まで先行研究で行われたことであればきちんと出典を示していかなければ剽窃が行われたことになってしまいますので、とても神経を使いました。剽窃が行われていれば学位をもらうこともできず、厳しくチェックされます。従って、私の書いた8000語ほどの短いレポートでも、参考文献はそれなりの数になってしまいました。もっと長い論文を書く時にはさらに参考文献が増えていくので、文献管理だけを目的にしたソフトもあるほどです。

そんなこともあって、ホームズ研究もやはり重要なことは先行研究を十分に把握、理解した上で、新しいテーマを設定し、理論構築し証明することだと思い定め、まずは地道にホームズの研究書を蒐集しています。しかし、ロンドン大学でやっていた研究と違って難しいところは、先行研究にどのようなものがあるのか把握することが難しいことです。公衆衛生の分野であれば、最近であればオンラインジャーナルも充実していますし、学校の図書館の書誌目録の検索も容易ですので、どんな先行研究があったのか、ある程度把握できるツールがありました。一方でホームズ研究については、100年の歴史があって様々な研究が行われているのですが、それらを適切に見つけることが難しいと思っていました。

今回購入したこちらの本はまさにタイトルにホームズ学が入っていて、研究の一助になりそうだと購入してみました。

シャーロック・ホームズ学への招待 (丸善ライブラリー)

シャーロック・ホームズ学への招待 (丸善ライブラリー)

  • 作者: 平賀 三郎
  • 出版社/メーカー: 丸善
  • 発売日: 1997/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

全体は3つの内容で構成されていて、最初がホームズ学とは何かを概説した物、次の二つがそのホームズ学を実践編で一つは「最後の事件」の研究、もう一つが「バスカヴィル家の犬」の研究になっています。

最初の部分でとても参考になったのは、「ホームズ学三種の神器」というものがあるということ。一つは上でも書いたベアリング=グールドの「注釈付きホームズ全集」で、これは私も持っています。もう一つがジャック・トレーシー著の「シャーロック・ホームズ事典」で、これは存在は知っているのですが、未購入でした。(マシュー・バンソンの「シャーロック・ホームズ百科事典」というのはあるのですが。)そしてもう一つが、ド・ワール編の「シャーロック・ホームズ大書誌」全四巻。これは「全世界のホームズとか正典に関する出版物、研究論文、グッズ、映画、演劇、TV、ビデオetc、ありとあらゆるホームズ関係のものを網羅した大書誌」(P13)だそうで、まさに私が求めている物のようです。

もう一つ参考になったのが、「ホームズ総合研究」の紹介。一つのテーマに絞るのではなく、正典60編を網羅し、当時の時代背景も含めて考えていくというもので、例えば事件発生時期を探る「年代学」であり、新しい読み方を提起する「解釈学」などがそれにあたるということ。それぞれ深い分野で、先行研究も多いですね。

また、この本の中では、「ザ・ゲーム」を「ホームズが真相を明らかにした『ザ・ゲーム』にさらに突っ込みをいれるゲーム中のゲーム」、「聖典60編の記載と当時のヴィクトリア朝大英帝国の文化・社会・科学技術などを及ぶ限り動員して、論理的に正しければ例え詭弁と言われようが、矛盾が矛盾ではなくなるようにうまく説明を付けるホームズ学が『ザ・ゲーム』」(P34)と定義していて、なるほどと思わされました。

実践編の方でも、先日紹介した「バスカヴィル家の犬」に登場しているクームトレーシーの場所についても、ベアリング=グールドの註釈の誤りをついて、別の場所であるとしているのは参考になりました。当時の鉄道の状況が分からないとなかなかここまで調べることはできませんので、 資料についてはさらに広げて収集していかないとと気持ちを新たにしました。またバスカヴィル館の場所についても推理していますので、今度はちゃんとレンタカーでダートムアを訪問してみたいと思います。


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コメント 3

みっちょん

Holmes and Watson Countryにもレストレード警部が
着いた駅について載っていますね。

いろいろな説があって面白いです。



by みっちょん (2008-12-30 15:09) 

みっちょん

トレーシー著の「シャーロック・ホームズ事典」これを
持っているととても重宝します。

私はパシフィカ版、すずさわ書店版そして名前が

「SHの大百科事典」と変わった河出書房版を持っていますが

訳者の日暮さんの校訂がある、そして事件別の逆引きもある
河出版のが良いように思えます。



by みっちょん (2008-12-30 18:28) 

Tomo

>みっちょんさま

事典はやっぱりトレーシーの物が良いのですね。まだ持っていないので河出書房版を購入してみたいと思います。
by Tomo (2008-12-30 22:31) 

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