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草にすわる [読書(楽しみ)]

先日に引き続き白石一文さんの本を読みました。

草にすわる (光文社文庫)

草にすわる (光文社文庫)

  • 作者: 白石 一文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/06/13
  • メディア: 文庫

 

3編の短編が収録されています。

「草にすわる」は先日読んだ「僕の中のこわれていない部分」と似た感じ。生と死が描かれるところは似ていますが、読後感はこちらの方がよいように思います。

ストーリーは紹介しませんが、印象に残ったフレーズはこんなところ。

「どうしても生きないではすまないような、生きるしかないような、そういう切羽詰まった理由を見つけてから再び社会に出よう、などと甘ったるく考えていたが、今回のことで洪治が身に沁みたのは、どうしても死なないではすまないような、死ぬしかないような切羽詰まった理由でもなければ、人は生き続けるしかない、ということだった。所詮、生きるとはそんなものなのだろう。」(P80)

「 ああ、俺はなんということをしてしまったのだろう。どんなに嘘でもどんなに幻であっても、自分にはそれをこれほどの喜びとして感じ取れる力があったというのに。生まれも境遇も生活も過去も一切を捨象してなおも残りつづける、これほどに確かな力が備わっていたというのに。」(P86)

「そして俺を周囲から守るために、この人はいまのいままで懸命に嘘をつき通してきたのだ。この人は自分がいきるためにそうしたのではなく、どこまでも投げやりなこの俺を生きさせるために、俺の独りよがりで身勝手な申し出を黙って受け入れたのだ。これまでの一切を悔い改め、もう一度息みようとしっかり思い固めたのは、俺なんかではなくこの人の方だったのだ。俺はなんと傲慢な人間なのだろう。なんと浅はかな人間だったのだろう。」(P104)

こうしたメッセージが込められたフレーズが生きるためには、その状況を読者が共有する必要があり、そのためにストーリーと一緒になってこそ印象に残る文章なのだと思います。小説とはそういうものだと思えるようになったのは最近の収穫でしょうか。昔は実用書しか読んでいなかったのですが、楽しみが広がっている気がします。

他の二作品は、少し趣が違う小説でした。二編目は歳をとった小説家の大家の話。三編目は特ダネを追う新聞記者の話。

どちらもその業界の事情なども分かり面白いのですが、これまで読んだ作品よりは内省的な部分が少ないのですが、やはり人としてどのように生きるのかということを感じさせる作品、ということでは共通するものがあると思いました。


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コメント 4

Pace

前記事のコメントに書いたように、白石さんに対しては
スゴイイメージしかなかったのですが、この本はタイトルも
表紙も手を出しやすい感じですね(’’)
こちらのほうから入ってみようかと考えました。
by Pace (2009-06-20 00:30) 

Yuki

この方の本は読んだことが無いです。
読みたい本が溜まってきて、どうにもこうにも~。^^;
by Yuki (2009-06-20 11:17) 

Tomo

>Paceさん、こんばんは。

三種類の違った作品なので、とっつきやすいかもしれないですね。前の本より感情移入できました。
by Tomo (2009-06-20 23:11) 

Tomo

>Yukiさん、こんばんは。

そうですね、読みたい本ってどんどんたまりますね。私もたまたま借りて読んだのですが、さらに白石さんの本を読んでみたくなりました。
by Tomo (2009-06-20 23:14) 

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