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ゴールデンスランバー [読書(楽しみ)]

伊坂幸太郎さんの作品は文庫を読み尽くしてしまったのでついにハードカバーにも手を出してしまいました。

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/11/29
  • メディア: ハードカバー

仙台で発生した首相暗殺。その容疑者に仕立て上げられてしまった主人公青柳が必死に逃走するという話。

「魔王」や「モダンタイムス」あたりから政治的なものや目に見えない巨大な権力といったモチーフが登場するようになりましたが、この作品でもそのあたりの系譜を継いでいるようです。彼の作品の多くは、ありそうでやっぱりなさそうな日常を描いていてそこが魅力なのですが、「終末のフール」やこちらでは「やっぱりなさそう」のスケールが大きくなっているように思います。

構成としては最初に病院に入院している患者がテレビで暗殺事件を目撃するシーンから始まり、暗殺事件から20年後のルポが挿入され、その後に主人公青柳の話が始まります。最初に事件をメディアを通して見たライブの視点、次に20年後に事件を振り返りその謎の真相にまつわるさまざまな説を振り返る視点が提示されることで、事件をまず外側から眺めてから、本編とも言える青柳雅春の話が始まります。表面的な事件の流れはすでに知っているので、青柳がたどった事件の真相とも言える当事者の視点や行動をたどることで人々が見ていた事件の裏で、実際には何が起こっていたのか明らかになっていくという構成はなかなか斬新でチャレンジングだと思いました。

しかし事件の真相というのはまったく明らかにはならず、青柳が少しずつ理解していったことから想像するしかありません。この辺はモダンタイムスにも通じる権力の不気味さと個人の無力さを感じさせられます。

青柳雅春はどこにでもいそうな宅配便の配達人なのですが、変わったところと言えば配達中に強盗に入られたアイドルを助けたことがあるということくらい。大学時代の友人達とのエピソードもどこでもありそうな大学ライフといった感じ。そんな彼が大事件に巻き込まれて訳が分からないながら懸命に逃げる気持ちはなかなかリアルで感情移入させられます。

ところで、本文中にも何度も登場しますが、この暗殺事件はケネディ暗殺を下敷きにしています。暗殺された金田首相の政界での台頭、教科書倉庫の人影、オズワルドとジャック・ルービーの逸話等々。ケネディ大統領の暗殺事件もいまだに真相は謎のままですが、もしかしたらこの本に書かれているようなことがオズワルドに起こっていたのかもと感じさせます。大学生の頃、ケネディ大統領にはとても興味があって、演説集で英語の勉強をしたり、伝記を読んだり、暗殺事件関係の本を結構読んでいたので、この本も余計に楽しめたと思います。

もう一つ、全編を通じて登場するのがタイトルにもなっているビートルズの名曲、「ゴールデンスランバー」。

Once there was a way to get back homeward

Golden slumber fills your eyes
Smile awake you when you rise

という歌詞がたびたび登場します。この歌詞の通り、故郷とも言える楽しかった大学時代にもう帰れないという青柳やその友人達の気持ちを反映しています。

この友人達も個性的な面々ですが、そういえばこの四人組もどことなくビートルズにも通じるような気がします。他にもポール・マッカートニーに似ている刑事が登場したり、Gloden Slumberを収録したアルバムAbby Road収録のエピソードが語られたりと、物語の底流を支えているようです。

青柳の逃走と同時並行でその友人仲間の一人でもあり(元)恋人でもあった樋口晴子の目線も入ってくるのですが、お互い直接会える訳ではないのに微妙に接点があって、助け合ってというところの構成もなかなか見事です。こういうところは伊坂さんの作品の醍醐味ですね。最後の事件から三ヶ月後のエピローグも爽やかに締めくくられていて読後感も良かったです。

伊坂さんの作品では「重力ピエロ」が一番好きでしたが、この「ゴールデンスランバー」もそれと並ぶ傑作だと思いました。映画化もされるようですが、2時間くらいの映画ではなくて「24」のような連続ドラマの方が面白いだろうなと思いました。


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コメント 6

Yuki

沢山、本を読まれるんですね!
羨ましいでう。^^;
by Yuki (2009-07-28 09:44) 

as

先日、映画版ですが「死神の精度」を見ました。あの一種独特な世界観を感じながら、Tomoさんのレビューを思い出しました。先ずは一押しの「重力ピエロ」辺りからスタートしてみようかと思います♪
by as (2009-07-28 20:16) 

Tomo

>Yukiさん、こんばんは。

本、まだまだ読みたいのですが時間が足りません。ゴルフももっともっとまわりたいのですがそちらもまだまだです。
by Tomo (2009-07-28 23:02) 

Tomo

>asさん、こんばんは。

死神の精度、映画でも見てみたいです。金城武ですよね。こちらは短編集で、相互につながっているという展開ですが、私は伊坂さんの長編が好きです。一押しは重力ピエロになりますね。文庫で出てますので是非ご一読を。
by Tomo (2009-07-28 23:11) 

Pace

とうとうハードカバーも攻略ですか!早いです~(^^;
私は先日やっと「陽気なギャング…」「砂漠」「オーデュボンの祈り」を
購入し…積んでます(笑)他の本後回しにして、伊坂作品に取り組まねば!
重力ピエロと並ぶ傑作となると、興味津々です(’’)
ケネディ大統領の暗殺事件については深く知らないのですが、これを
読む前に少し情報収集しておいたほうが楽しめそうですね。
by Pace (2009-07-29 00:31) 

Tomo

>Paceさん、こんばんは。

私が最近読んだものを購入されたんですね。一度読み始めると一気によみたくなってしまうのが伊坂作品の魅力ですよね。優しさや温かさという点では重力ピエロの方がよかったと思いますが、構成や展開という麺ではこちらが上でしょうか。

ケネディ大統領暗殺は必ずしも知らなくても中で解説されてますので大丈夫だと思います。それよりは、ビートルズのアビーロードのアルバムを用意して、かけながら読むのがお奨めでしょうか。
by Tomo (2009-07-31 22:33) 

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