「魔王」 [読書(楽しみ)]
伊坂幸太郎さんの魔王を読みました。
人に自分が思ったことを喋らせることができる能力を、ある日突然発見した安藤兄と、予知能力があることに気がついた安藤弟の兄弟の話。とはいえ、この本は2編に別れていて、最初の話が安藤兄の話で、このときには弟の潤也は自分に予知能力があることを知りませんし、兄も自分に不思議な能力があることに気がつきますが、弟もその能力を知りません。最初の話は兄の一人称、二つめの話は一話目の5年後で潤也の妻、詩織の一人称になっています。
一話目で台頭していた野党党首の犬養が二話目では首相になり、憲法改正に取り組んでいるという時代背景が話の大きなキーになっていて、二人の兄弟がそれぞれファシズムを感じさせる犬養をどう考え、どう挑んだかという点が一つの主題になっています。
実は、この話を読む前に、「魔王」の続編とも言える「モダンタイムス」を週刊モーニング誌で読んでいましたので、犬養のことも詩織のことも少しだけ予備知識がありました。とはいえ魔王の50年後の世界なので、詳細は分からないままだったので、今回読んでみて初めて背景となる世界観を得たわけです。「モダンタイムス」は近未来の話として、モーニングに連載されていたのですが、不思議な世界観に引き込まれて、モーニングを楽しみにしていました。「魔王」とも共通するのは、この世界がすべて何らかの大きな力によって動かされているのではないかという不気味さです。何をしても監視されているような気がする、すべての出来事が仕組まれているように思えるといった、ちょっと自意識過剰気味ではあるものの、日常もしかしてと思ってしまう感覚がうまく使われています。映画「トゥルーマンショー」のような感覚といってもよいでしょうか。
そんな世界観の中で、安藤兄弟は見えない大きな力に挑んでいきます。無意識に大きな力に流されてしまうことなく、自分が発見した武器を使って挑む姿勢に勇気を感じます。「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決するんだ」「そうすりゃ、世界は変わる。」というのは、兄の言葉ですが、この言葉が一つのキーワードとなっていつつ、そう簡単にはいかないという現実もある。実際はどっちなんだ、ということは自分で考えるしかないということでしょうか。
兄が、困難に直面したときにつぶやく「考えろ、考えるんだマクガイバー」っていう台詞は、「冒険野郎マクガイバー」が好きだった世代にとっては懐かしい台詞でした。「ダイハード」でもブルース・ウィリス演じるマクレーンが「考えろ、考えろ」ってつぶやいていましたし、やっぱり思考放棄しない姿勢が大切なんだって思いました。(一方ブルース・リーは「考えるな、感じろ」っても言ってましたが。)
また、二つの違う話ですが、時空を越えて微妙に重なっているのも面白いところです。兄の見た幻想と弟が見た景色が5年の時を越えてシンクロしているシーンがあります。これがどういう意味を持つのか、もう一読して理解したいところです。
もう一つ印象的だったのは、宮沢賢治の詩の使われ方です。私も、彼がこんな詩を書いているとは知りませんでした。
一部の引用ですが、物語の中で大きな意味をもっている印象的な詩なので、ここでも書き記しておきたいと思います。
新たな詩人よ
嵐から雲から光から
新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形をあんじせよ
新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴らしく美しい構成に変へよ
諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか
調べてみたら、「生徒諸君に寄せる」という詩の一部のようです。宮沢賢治にも少し興味が出てきましたので、この詩がのってる本を買ってみようかと思いました。
伊坂幸太郎さんの本は何冊か読んでいますが、こちらは未読なので
ぜひ読んでみたい!と思いました。
「考えろ、考えろ」と「考えるな、感じろ」、180度違うようにも思えますが
どちらも自分自身への問いかけと考えればやはり同じことでしょうか。
あとは、個人の好み?というか性格に合うやり方で、Tomoさんのおっしゃる
ように思考放棄しない事が大切なのですね。
by Pace (2008-12-11 00:48)
>Paceさん、こんばんは。
思考放棄をしないっていうのは本当に大切ですね。あと、追い込まれても楽しむ心も忘れないようにしたいと思っています。
by Tomo (2008-12-11 23:20)