探偵倶楽部 [読書(楽しみ)]
出張に行くときには空港の本屋さんで本と雑誌を買い込みます。雑誌は飛行機の中やホテルで読んで、そのままお土産として現地の同僚に。本も読み終われば同じくお土産になることもありますが、何冊かを同時進行したりするので、結局終盤にならないと読み終わらなかったりするので持ち帰ることが多いかも。
だいたい旅行もの、歴史もの、ミステリー、ビジネス書あたりを織り交ぜて持って行きます。
これも出張に持って行った本の一冊。
東野圭吾さんは最近読み始めたのですが、こちらで二冊目。(そういえば一冊目の感想かいてないので、あとでかいとかなくちゃ。)一冊目が長編だったので今回は短編集にしてみました。
タイトルの探偵倶楽部とは、お金持ちだけが入れる会員制の探偵サービス。その探偵倶楽部の探偵、外国人のような風貌の男性、長い黒髪が印象的な女性の二人が依頼者に調査を依頼されその報告をするというのが、共通していますが、調査シーンはあまりでてきません。各短編は事件の関係者を中心に描かれていますので、探偵は依頼する時と報告をするときしかでてこないのです。そういう意味ではこの探偵二人が主人公というわけではないですね。
どの短編も序盤から中盤までは事件の輪郭を読者に把握できるような形で進むのですが、最後にどんでん返しがあるというパターン。まだ二冊目ですが、これが東野圭吾さんの作品の特徴なのでしょうか。読者が推理できる余地はあまりないのですが、ストーリーと最後の意外な真相が楽しめました。
面白南極料理人 名人誕生 [読書(楽しみ)]
西安で三日目が終わりましたが、毎日朝から夕方まで仕事が続き、街を見る時間もなく、あまりブログにかけるような出来事もありませんでした。
ここのところ出張続きで毎月のように海外な訳ですが、出張中はホテルや移動の時間などにちょっとした隙間時間が多くできます。もちろん町並みウォッチやヒューマンウォッチも楽しいのですが、特に夜のホテルの部屋にいる時間は結構ぽっかりと時間もあくせいもあって、格好の読書タイムに。
毎回の出張でだいたい1日一冊ペースくらいになるように文庫本を買い込んでやってきます。内容はちょっと軽めのものからビジネスもの、古典まで。でもやはり異国で読むのは旅行者が一番、ということで紀行ものをもってくることが多い傾向が。
こちらもそんな一冊。
海上保安庁から、南極観測隊として南極に旅立った記録。
といっても、堅苦しい者ではなくて、南極越冬隊に参加しているちょっと変わった人々やその生態を面白おかしく綴った記録。
著者の西村さんは調理隊員ということで、越冬隊の食事を一手に(といっても相方のスー坊もいるのですが)引き受ける役どころ。南極での食事の様子など、なかなかに興味深いのですが、いうほどは食事シーンがメインというわけではありませんでした。むしろ、隊員達の行状、行きの舟の中や基地という閉鎖された世界で、ちょっと大城区変わった人たちがどんな風に暮らしているのか、といったところが中心。そして、これが西村さんの表現ぶり(ちょっと椎名誠さん風)もあいまって、面白おかしく読めました。あっというまで、北京から西安への飛行機のなかで読了。
残念ながら、越冬の途中までしか描かれていないので続きが気になる一冊。次の出張には続きがあれば持って行こうと思います。
約束 [読書(楽しみ)]
ひさびさに石田衣良さんの本。
短編集ですが、泣ける話ばかりが集められています。
通り魔に目の前で親友を殺されてしまった男の子や、突然耳が聞こえなくなってしまった子供とお母さんの話、モトクロスで夫を失った女性とモトクロス初心者の少年の話、等々。いずれも身近な人の死や病気をあつかっているので悲しい話にしかなりようがないのですが、その悲しさから立ち直る過程が描かれていてそこに感動します。ちょっとファンタジー的な要素もあって、それがよいアクセントになっています。
IWGPシリーズでも最後にほろりとくる話が多くて、それで石田衣良さんの作品が好きなのですが、この本はそうした泣かせる要素をこれでもかと詰め込んだ短編集で、石田衣良さんの作品の魅力が改めて堪能できました。
ドナウの旅人 [読書(楽しみ)]
ベオグラードに住む方からお願いされて持って行ったのですが、ベオグラードに行くときに荷物がロストしたためそのまま日本に帰ってきてしまいました。
まだ東欧が共産圏だった時代の話です。
突然ヨーロッパに旅立ってしまった母を主人公・麻沙子が追ってドイツに向かうところから話が始まります。麻沙子はかつてドイツに住んでいて、結婚直前で別れて帰ってきてしまった恋人・シギィに再会し、母とその不倫相手を見つけ、彼らとともにドナウの果てまで旅をする、というのが大筋です。
ドイツからオーストリア、ハンガリー、ユーゴスラビア、ルーマニアと旅していくのですが、民主化された現在とは違う東欧が描かれているのが興味をそそられました。実際に宮本輝さんが同じ行程で旅行をしたそうで、その記録も本になっているようで、こちらも読んでみようと思います。
母の不倫相手が17歳年下の男で、莫大な借金を背負っていることから、その追っ手が現れたり、各地での出逢いや別れがあったり、惹きつける要素が多いのですが、当時は新聞に連載されていたということで、こうした盛りあがりが繰り返されるのもそのためかもしれません。
今回訪問したベオグラードも登場していました。こうして本で舞台となっている街に実際にいるというのも面白い経験で、本もその場所もより印象に残ります。どこかに行くときには、その場所が登場する本を持って行くというのはなかなかいいですね。
ST 警視庁科学特捜班 青の調査ファイル [読書(楽しみ)]
またしても今野敏さんのSTシリーズ。
解説によれば、前作から本作の間はしばらく空いていたとのことで、第二部的な位置づけのようです。まずこの作品から〜の調査ファイルとなって、ここに色が入ります。その色とは、STメンバーの名前に色にちなんだ漢字が入っているので、その色をとっているようです。
本作は、「青」ということで秩序恐怖症で超美形のプロファイラー、青山が主人公。
青山が事件解決に大きな役割を果たすんだろうとは予測していましたが、確かにそのとおりではあるのですが、特に青山を中心に描写されるというほどではなく、基本は百合根キャップと被害者側の描写が中心というのは前々作とにています。
事件は心霊番組を撮っていたスタッフの一人がその取材中の部屋で変死を遂げたというもの。霊媒師やテレビ業界のことが分かったりするのも面白いところでした。
しばらくは色調査ファイルシリーズでいきたいと思います。
ゴールデンスランバー [読書(楽しみ)]
伊坂幸太郎さんの作品は文庫を読み尽くしてしまったのでついにハードカバーにも手を出してしまいました。
仙台で発生した首相暗殺。その容疑者に仕立て上げられてしまった主人公青柳が必死に逃走するという話。
「魔王」や「モダンタイムス」あたりから政治的なものや目に見えない巨大な権力といったモチーフが登場するようになりましたが、この作品でもそのあたりの系譜を継いでいるようです。彼の作品の多くは、ありそうでやっぱりなさそうな日常を描いていてそこが魅力なのですが、「終末のフール」やこちらでは「やっぱりなさそう」のスケールが大きくなっているように思います。
構成としては最初に病院に入院している患者がテレビで暗殺事件を目撃するシーンから始まり、暗殺事件から20年後のルポが挿入され、その後に主人公青柳の話が始まります。最初に事件をメディアを通して見たライブの視点、次に20年後に事件を振り返りその謎の真相にまつわるさまざまな説を振り返る視点が提示されることで、事件をまず外側から眺めてから、本編とも言える青柳雅春の話が始まります。表面的な事件の流れはすでに知っているので、青柳がたどった事件の真相とも言える当事者の視点や行動をたどることで人々が見ていた事件の裏で、実際には何が起こっていたのか明らかになっていくという構成はなかなか斬新でチャレンジングだと思いました。
しかし事件の真相というのはまったく明らかにはならず、青柳が少しずつ理解していったことから想像するしかありません。この辺はモダンタイムスにも通じる権力の不気味さと個人の無力さを感じさせられます。
青柳雅春はどこにでもいそうな宅配便の配達人なのですが、変わったところと言えば配達中に強盗に入られたアイドルを助けたことがあるということくらい。大学時代の友人達とのエピソードもどこでもありそうな大学ライフといった感じ。そんな彼が大事件に巻き込まれて訳が分からないながら懸命に逃げる気持ちはなかなかリアルで感情移入させられます。
ところで、本文中にも何度も登場しますが、この暗殺事件はケネディ暗殺を下敷きにしています。暗殺された金田首相の政界での台頭、教科書倉庫の人影、オズワルドとジャック・ルービーの逸話等々。ケネディ大統領の暗殺事件もいまだに真相は謎のままですが、もしかしたらこの本に書かれているようなことがオズワルドに起こっていたのかもと感じさせます。大学生の頃、ケネディ大統領にはとても興味があって、演説集で英語の勉強をしたり、伝記を読んだり、暗殺事件関係の本を結構読んでいたので、この本も余計に楽しめたと思います。
もう一つ、全編を通じて登場するのがタイトルにもなっているビートルズの名曲、「ゴールデンスランバー」。
Once there was a way to get back homeward
Golden slumber fills your eyes
Smile awake you when you rise
という歌詞がたびたび登場します。この歌詞の通り、故郷とも言える楽しかった大学時代にもう帰れないという青柳やその友人達の気持ちを反映しています。
この友人達も個性的な面々ですが、そういえばこの四人組もどことなくビートルズにも通じるような気がします。他にもポール・マッカートニーに似ている刑事が登場したり、Gloden Slumberを収録したアルバムAbby Road収録のエピソードが語られたりと、物語の底流を支えているようです。
青柳の逃走と同時並行でその友人仲間の一人でもあり(元)恋人でもあった樋口晴子の目線も入ってくるのですが、お互い直接会える訳ではないのに微妙に接点があって、助け合ってというところの構成もなかなか見事です。こういうところは伊坂さんの作品の醍醐味ですね。最後の事件から三ヶ月後のエピローグも爽やかに締めくくられていて読後感も良かったです。
伊坂さんの作品では「重力ピエロ」が一番好きでしたが、この「ゴールデンスランバー」もそれと並ぶ傑作だと思いました。映画化もされるようですが、2時間くらいの映画ではなくて「24」のような連続ドラマの方が面白いだろうなと思いました。
ジョジョの奇妙な研究 [読書(楽しみ)]
「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画のシリーズがあります。そのジョジョの研究本ということで読んでみました。
「ジョジョの奇妙な冒険」はすでに20年を超えるシリーズで、現在も第7部にあたる「Steel Ball Run」がスーパージャンプ誌上で 連載中。
第7部では時代ももどって世界設定も変わってきてしまっていますが、第1部から第6部までは、19世紀末のイギリスから始まり、アメリカ、日本、イタリア等々、舞台と時代を移して、主人公であるジョースター家の人々も世代を変えて、活躍してきました。
20年前に少年ジャンプで読んだ時は、ジャンプではすでにドラゴンボール、北斗の拳、キン肉マン等々の人気漫画が連載されていたのですが、 ジョジョはその独特の絵柄や台詞回し、擬音語、展開等々、ひと味違う魅力がありました。第5部くらいからはジャンプ誌上で読むことはなくなってしまいましたが、たまに漫画喫茶に行って単行本で読んでいました。
この本はそんなジョジョワールドの研究書。例えば、「承太郎たちの道中のヒマな時間の過ごし方」とか、「吉良吉影は川尻浩作の職場にうまく入り込めたのだろうか?」とか、ジョジョの世界で気がついた様々なことに考察を加えていくという構成です。
ジョジョ好きの私ですが、さすがに細部まで覚えていないこともあったりして、改めていろいろな設定を思い出したりしました。研究というには、ちょっと深掘りが足りないような気もしましたが、さらっと読んでジョジョの世界を思い出すにはなかなか良い本だと思います。ジョジョを読んだことがない人にはさっぱりだと思いますが、多少でも読んで面白いと思った人なら楽しめるのではないでしょうか。
久しぶりにジョジョ読み直してみたくなりました。(ちなみに私の好きなシリーズは第3部です。)
毒物殺人 [読書(楽しみ)]
今野敏さんのST警察庁科学特捜班シリーズの2作目です。
今野敏さんの警察ものはいくつか読んでいますが、シリーズで読んでいるのはまだこのSTシリーズのみです。これを読む前に3作目の「黒のモスクワ」を読んでしまっていましたが、まだシリーズ序盤だからか、順番が違ってもそれほど違和感はありません。
本作では、ふぐ毒による奇妙な連続殺人事件と人気女子アナの話が相互に入り組んで最後に二つの事件が結びつき、STの面々が解決するという展開です。
前にも書きましたが、このST科学特捜班の面々は一人一人が際だった個性と特殊な能力を持っているという設定で、シリアスな刑事物というよりは、ゴレンジャー(古いか)みたいなヒーローものを彷彿とさせます。
これまで3作読んでいますが、ちょっと無理矢理5人を登場させようとしているような気がして、誰か一人に感情移入できないところがあるように思います。そんな5人をまとめる百合根キャップが人間らしくてかろうじて共感できますが、ちょっとまじめすぎる嫌いもあります。
そんな難がありつつ、夢中になって読んでしまうのはストーリーの面白さかもしれません。最後まで何がどう絡まっていくのか楽しみに読み進むことができました。
4作目以降は、STメンバーそれぞれに深く入っていく内容のようなので楽しみにしています。また近く読んでしまいそうです。
I'm sorry, mama [読書(楽しみ)]
借りたので読んでみました。
内容(「BOOK」データベースより) 児童福祉施設の保育士だった美佐江が、自宅アパートで25歳年下の夫と焼死した。その背景に、女の姿が浮かび上がる。盗み、殺し、火をつける「アイ子」。彼女の目的は何なのか。繰り返される悪行の数々。次第に明らかにされる過去。救いようのない怒りと憎しみとにあふれた女は、どこからやって来たのか。邪悪で残酷な女の生を、痛快なまでに描き切った問題作。
なんだかまったく共感できない人々が登場してくるので最後まで読めるか心配でしたが、次々に展開し、徐々に絡み合っていくストーリーに一気に読めてしまいました。
アイ子のキャラクターがまず絶望的に酷いのですが、その酷さというのが不気味なものというよりは本能的なものであることが分かってくるにつれて、少しではありますが理解できてくるようなところがあります。
ストーリーは最後まで救いようのないものなのですが、どこか明るさというかとぼけたところがあって、陰湿な感覚がないのが読み進められた理由かもしれません。借りなかった絶対読んでなかったとは思いますが。
終末のフール [読書(楽しみ)]
伊坂幸太郎さん、最新の文庫を読んでみました。
舞台は伊坂さんの作品ではすっかりおなじみの仙台近く。8年後に隕石が地球に衝突して終末が訪れることが分かってから5年が経ったという設定で、ある団地に住む人々がどのように終末を受け入れて、どのように生きるのか、を描いた短編集です。
同じ団地の人々を描いているので、それぞれの作品に別の作品の主人公がちょっとづつ顔を出すのですが、伊坂さんのことなので最後にそれらが一つにまとまって、何かが起きるのではと期待させてくれます。
設定としては突拍子もない、でもあり得ないわけではないという設定なのですが、人々が終末についての情報をどう受け止めたのか、どう感じているのか、これからどうしようか考える姿がリアルなのですんなりと受け入れられます。と、同時に、こんなニュースを聞いたら自分ならどうするのか、世界はどうなってしまうのか、考えさせられます。
隕石の衝突が明らかになってから5年経っている時点での話なのですが、終末が来ることが明らかになってからしばらくは大パニックにおそわれたことが登場人物の話から伺えます。混乱で秩序がなくなり、家族を失っている登場人物も多数。5年経って、それもだいぶ落ち着いたというのが、この話の舞台となっています。
終末が8年後というのが微妙な設定ですよね。映画の「アルマゲドン」や「ディープインパクト」を思い出しますが、それらよりも残された時間が長いというのがポイントでしょうか。パニックも起こるし、絶望した人が自殺もするし、暴徒が焦点を襲うし、妙な宗教がはやるし、それでも5年も経つと治安も回復して流通も回復してたり。
印象に残ったところ。
「私が読んだ本に、確かビジネス書だったと思うんですけど、書いてあったんです。『新しいことをはじめるには、三人の人に意見を聞きなさい』って。」「三人?」「そうなんです。まずは、尊敬している人。次が、自分には理解できない人。三人目はこれから新しく出会う人。」(P159)
「苗場君ってさ、明日死ぬって言われたらどうする?」俳優は脈絡もなく、そんな質問をしていた。「変わりませんよ」苗場山の答えはそっけなかった。「変わらないって、どうすんの?」「ぼくにできるのは、ローキックと左フックしかないですから。」「それって練習の話でしょ?というかさ、明日死ぬのに、そんなことするわけ」可笑しいなあ、と俳優は笑ったようだ。「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」文字だから想像するほかないけれど、苗場さんの口調は丁寧だったに違いない。「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」(P220)
「お金っていうのは有意義な研究じゃなくて、面白そうな研究とか役に立ちそうな研究に、集まるんだ」「『役に立ちそう』と『有意義』は同じ意味だろ」「矢部君、本気で言ってるの?」彼はまた言った。「全然違うって、役に立つ、のと、役に立ちそう、というのは別物だよ。偉い人と、偉そうな人ってのが全然違うのと同じでさ。」(P241)
どの話も面白かったのですが、個人的にはスーパーの店主を主人公にした話も読みたかったですね。